知は力なり:グローバル学術出版社で1年働いてみた

オーストラリアで転職して早1年が経ちました。

日本で10年近く中高校生向けの英語教材編集者をした後、2022年の豪州移住をきっかけに転職したのはアメリカの学術出版社(Wiley)のオーストラリア法人でした。

Wileyは1807年創業、世界20カ国以上に拠点を構える大きな組織で、世界中に自分と同じ部門の同僚がいて、日々オンラインで繋がっています。
なので「企業に入社した」というよりも「出版のグローバルコミュニティに加入した」という感覚の方が近いかもしれません。

「Editorial Office Coordinator」なる自分の職務を平たく言うと、「編集事務局スタッフ」。
文字通り世界中からオンラインで毎日投稿される論文を、Editorと呼ばれる先生方(兼お医者様)と連携し、peer review(査読)の進捗管理を行い、担当する医療ジャーナルが毎号滞りなく発刊されるよう管理するお仕事です。

日本ではずっと、教材編集の仕事を通じて大学入学を目標とする「中高校生」を対象に彼らの志望校合格を微力ながらサポートしてきました。
今はその先、大学の中の方々(教授陣や博士課程の若き研究者)あるいは病院・研究機関の「先生」が対象になりました。

同じ「出版社」と言えど全く業界が違うので、入社当初は期待よりも不安のが多く募りました。

「英語を」仕事にはしてきたけれど、「英語で」仕事ができるのか
ド文系なバックグラウンドの自分にSTM(理工医学)分野の編集担当が務まるのか
30代半ばで、教育から学術という全く新しい畑で一からやっていけるのか
ブリスベンオフィスの日本人は自分一人で溶け込めるのか・・・うんぬん。

しかし、いざ飛び込んでみたら全ては杞憂でした。

リモートで学術出版のイロハを教えてくれる経験豊富な東京の先輩方
おしゃべり好きでアットホームなオーストラリアの上司やオフィス仲間
迅速かつ柔軟にサポートしてくれるインドやシンガポールの同僚
熱意ある言葉と確かな統率力で鼓舞してくれるリーダーたち・・・

オンライン・オフライン問わず支えてくれて、「ここで働けて幸せだ」「ここでもっと誰かの役に立てるようになりたい」とモチベーションをくれる仲間が、世界中にたくさんいました。

もちろん、ド素人で入った業界なので毎日が学ぶことばかりです。
新たに知った業界用語を書き溜めた自分のスプレッドシートは、1年で400行近くになりました。
理工医学系の出版といえど、そこに渦巻く学術出版倫理や作法は非常に人間味があり時にウェットで、むしろそこは文系寄りかもしれません。
「このケースはどう対応するのがベストか」と毎回頭を捻り調べ物をしては、各拠点の先輩方にお知恵を拝借する日々です。

でもそれが「苦にならない」むしろ「新しく学ぶことばかりで面白い!」と思えることは、本当に幸せです。

もちろん前職も大好きだったので、オーストラリア移住とともに退職する際は後ろ髪引かれる思いでした。
半ばやむを得ない転職ではあったかもしれません。
ですが、いざ飛び込んでみたら「世界中の最新の研究成果が集まる、こんな壮大で奥深い知の世界が広がっていたのか!」と驚きの連続です。

もちろん、私自身が研究をするわけでも、論文を書いているわけでもありません。
ですが、ある研究者が発見した「最新知」を世に送り出し、世界中の人々の「共有知」にする(特に最近は「オープンアクセス」と呼ばれる、オンラインで誰でも無料で論文が読める形での出版が増えつつあります)その過程の一部を担うことは大きなやりがいと喜びがあります。

Unlock human potential.

今日も世界のどこかで学び続ける誰かの知識のアップデートを、
そして私たちの世界そのものを、少しでも良い場所にする一助になれていたら。

だって、未知のウイルスとの闘い方も、この世界にごまんと溢れる偏見や差別を少しでも減らす方法も、全ては「知る」ことから始まるのですから。

日々溢れんばかりの情報の波に揉まれながらも、好奇心を持ち続け、変化を楽しみながら2年目も励んで行けたらと思います。

Knowledge is power.
Embrace your curiosity.
Ayaka