夢や目標は(仮)くらいがちょうどいい。(学生の君(とかつての自分)へ)

ブリスベンの街がクリスマス飾りで彩られ始めた11月半ば、ゴールドコーストの大学に留学中の日本人学生さんが、私を訪ねて来てくれた。

留学生活の楽しみと困っていること、将来への漠然とした不安と期待、周囲と比べての焦り…さまざまな想いを聞きながら、5年前に社会人留学生、そして日本で現役大学生だった頃の自分が思い出された。

「留学で学んだことが、今のお仕事にどう生きていると思いますか?」

この質問をもらった時、私は(失礼ながら)彼女を前に思わず笑ってしまった。
なぜなら、現役大学生だった頃の私は、就活のOB・OG訪問などで同じような質問を散々、先輩たちにしてきたからだ。

「大学での学びがどう生きていますか?」
「学生のうちにやっておいた方がいいことは何ですか?」

目の前の彼女も、当時の私も、当の本人たちはいたって真剣そのものなのだが、どこか照れ臭くて笑ってしまった。

「予定調和に行くことなど何一つない」
社会人を12年ほどやってみて、そう思うようになったからなのかもしれない。良くも悪くも、自分自身の内面も、自分を取り巻く環境も、日々変化しているのだから。

日本の大学では英語教育を学び、英語教材編集者になった。でもそれは学ぶ中で「これは面白い!」と思ったから。入学当初は翻訳家になりたかったし、就活時は教育出版社と並行してマスコミの記者職も受験していた。
オーストラリアの大学ではスポーツマネジメントやマーケティングを学んだ。けれど今は英文医療ジャーナルの編集者をやっている。

たとえ専攻の延長線上の職業に就いたとしても、いざ実務を始めれば、その業界・会社独自の「お作法」や学ぶことは山のようにあり、情報は日々アップデートされている。学生時代に学んだことは「知っておいて損はない」くらいのごく一部に過ぎなかったと気づく。
大学では「学ぶことを学んだ」という経験という財産が自分に残れば十分ではと個人的には思っている。

確かに、医者になりたくて医学部に、薬剤師になりたくて薬学部に、美容師になりたくて美容専門学校に…と、特に技術や資格が関係するものは夢・目標から逆算して、「実学」を学ぶ必要があるだろう。

必ずしも崇高な夢や目標が現時点ではなくとも、留学生活・大学においては自分が興味関心のあることをどっぷり探求・探究してよいと思う。

「これは自分に向いていそうな気がする」
「これは好きだ。いくらやっても苦にならない」

そいういのが学ぶ過程で何となく見えてきて、軌道修正しながら進んでいくのではないかと。(NHKの朝ドラ『舞いあがれ!』の舞ちゃんが航空工学を学びに大学に入った結果、人力飛行機サークルでの経験を通じ航空学校へ転じたみたいに。)

もちろん、世の中には「プロ野球選手になる」「一流のピアニストになる」と若い頃から決意して実際に逆算的に努力を積み重ね、実現した人もたくさんいる。
そして「夢・目標」は「そのために今、自分がすべきことは何か」を教えてくれ、大きなモチベーションになりエネルギーを与えてくれる。

でも一方で、夢や目標に執着・固執し続けることもまたリスクが伴う
特に現在のウクライナ戦争やコロナのような世界的感染症の流行など、個人の力ではどうにもできない事態が発生し、それが自分の計画を狂わせることが往々あると私自身も含め多くの人が痛感しているはずだ。それは極端な例ではあるけれど、ケガ・病気・経済的な事情・その他不測の事態が自分の身に起こる可能性は十二分にある

だから例えば「留学・海外インターンを通じてビジネスを学んで、帰国したら大手商社で3年働いて、そしたら海外転職して・・!」のように、夢や目標をがっちりロックオンしてしまうのはちょっと怖い
(そしてあまり面白味もない。)

要因が自分自身であれ、外的なものであれ、計画通りに行かなかった時、

「こんなはずじゃなかったのに」
「こんなのなりたかった私じゃない、ちっとも輝いていない!」

と自分自身に落胆し、現実と自分を受け入れるのがしんどく、「自分への敗北感」に打ちひしがれることになる。現に私自身がそうだった。

もちろん失敗したり傷ついて、七転び八起き的にそこから一念発起することも大事な経験だ。だからと言って、仮に今、自分にはっきりとした夢・目標がなくても、焦ったり、周囲に対して引け目を感じる必要は全くないと思う。

将来から逆算してただタスクをこなすように日々を生きるより、日々の授業やサークル活動、アルバイト、ボランティア、友人関係、恋愛…色んなことを一喜一憂しながら経験する中で自分が何を感じ、どう変化していくのか、そのプロセスすらも楽しめたらいいんじゃない、と。

「自己分析とか全然できていなくって…」

大丈夫、あなたより一回り上の私だって、30代に入ってから思いもよらない道を歩み、未だに自分でも未知だった能力や適性に気付き、驚いているくらいだから。この先だってどこへ向かうかわからない。

「そんな面も含めて素直で一生懸命な若者って可愛いんだよね」
と相方に話したら
「いい歳の取り方をした人の感想ですね」
とさらっと笑われた。

こんな風に先輩風吹かしたがる時点で、まだまだ未熟者な私です。

We are constantly changing – whether it is evolution or devolution.
Ayaka