文化系・体育会系のボーダーを越えて行け~窪木一茂選手との対話から考える令和の教育

文化部だから、野球とかサッカーとか特に興味ないんだよね。
運動部だから、音楽とか絵画とかちょっとわかんないな。
ー私が中高校生の時はそんなカテゴリ分けや、「●●を選んだから▲▲はできない」という概念がごく一般的でした。理系・文系のくくりもそう。でも、令和を生きる子どもたちの教育はもっと柔軟・自由なものであってほしいと。そんなことを、中距離トラックレース・ロードレースの窪木一茂選手とお話しする中で考えました。

窪木一茂選手と言えば、2018年日本選手権で5種目を制覇した自転車中距離の第一人者、日本代表チームのエース。2016年のリオオリンピック出場経験を持ち、現在は静岡県三島市を拠点とするチームブリヂストンサイクリングに所属しながら東京オリンピックの出場を目指しています。7月のNHK BS1の特集『スポーツ×ヒューマン 迷って、それでも貫いて~自転車 窪木一茂~』をご覧になった方も多いかと!

そんな窪木選手が、全日本ロードレース選手権前の忙しい合間を縫って、6月末、私の職場である三島の教育会社を訪問してくれました。窪木選手は、日本大学卒業後、和歌山県職員として勤務する傍ら国内プロチームに所属、県庁退職後はNIPPO・ヴィーニファンティーニに移籍しイタリアを拠点にヨーロッパでのチャレンジを重ね、そしてチームブリヂストンへ…という濃密な経験の持ち主。私より1歳下の1989年生まれで、同世代の社会人として純粋に「すごい!」という尊敬の気持ちはもちろん、教育的観点からもとてもユニークで、話題は勉強とスポーツの関係の話に。

「僕は体育大学出身で、ずっとスポーツ一筋で。大学時代も競技生活が多忙だと、勉強が得意な仲間に課題を助けてもらったりして…」と謙虚な窪木くん(敬意と友情を込めて「くん」で失礼します!)。
世界をまたにかけるトップ選手に対して図々しいにもほどがあるけれど、恐れずに言えば、「ふとお互いどこか似ているのかも?」と。私は学生時代は勉強(語学)一筋。英語教育を専攻して、そのまま英語教材編集者になった、いわゆる「運動のできないガリ勉」タイプで、「スポーツとは一生無縁の人生を送るんだろうなぁ…」と思っていました。それが、ロードバイクに出会い、愛車とともにブリスベンに留学し、それがご縁で窪木くんともつながるきっかけに。(代表チームはブリスベンで国外合宿をしていたのでした。)

「スポーツ一筋」「勉強一筋」だった同世代の私たちが、自転車を通じてこうして出会えたこと、それは一見数奇ではあるけれど、「ボーダーを越える」と考えれば実は自然なのかもしれません。イタリアチームに所属し、競技スキルはもちろん、監督やチームメイトとのコミュニケーションに英語(+αの外国語)ができることが大きな意味をもつことを学んだという窪木くん。外国語を学び、そこからアマチュアサイクリストながら海外で自転車に乗る醍醐味を学んだ私。教育という枠組みで見れば、きっと入り口がいわゆる「文化系」「体育会系」のどちらかだっただけという話。

もちろん、トップアスリートとして活躍する窪木くんはものすごく勉強して、色んな知識を体得しているのだと思います。運動生理学、物理学、心理学、栄養学…。(それをけっして表に出さないのが彼の謙虚で素敵なところ!)さらには、国内外各地をレースで転戦していると「遠征先で、その土地の歴史とかも、もっとわかっていたらいいなぁと思うことはありますね」とも。世界中を訪れてその土地を走り、各国の選手たちと共に戦うのに、世界史や宗教学の知識・教養も背景知識としてもっているに越したことはないのだと思います。

▲日の丸と名前入りの窪木選手のバイク

▲記念にいただいたボトルは宝物!

“STEM”(ステム)教育という言葉を聞いたことはあるでしょうか?

STEMとは、「Science」(科学)、「Technology」(技術)、「Engineering」(工学)、「Mathematics」(数学)の頭文字を取ったもの。科学・技術・工学・数学を重視した教育を意味します。近年、文科省・経済産業省が主体となり日本でも提唱されていて、2020年度から小学校で必修化されるプログラミング教育なんかが代表例ですね。ここに「Art」(芸術)が加わり、“STEAM”(スティーム)、そしてさらに「Sports」(スポーツ)を加えた派生体系は“STEAMS”(スティームズ)と呼ばれます。

AIやIoT(Internet of Things;モノのインターネット)が台頭し、世の中はますます予測困難に、子どもたちは今現在は存在しない職業に就くであろうと言われる社会の中で、知識・技能・教養・身体能力、さまざまな分野を横断的・融合的に学び体得しようという概念・枠組みといったところ。詳しくは省庁や教育専門サイトに譲りますが、「文系・理系」「文化系・体育会系」という私たち大人世代が受けて来た教育の概念を、今の子どもたちに当てはめるのはムリがあると認識し、可能性を育む多様な選択肢を柔軟に提供してあげることが大切なんだろうと私は解釈しています。

そして学びは子どもに限ったことでもなく大人も一緒。学生時代にしなかった分野に足を踏み入れるのに遅いことはありません!私も「一生無縁」と思っていた「Sports」に足を踏み入れなかったら、それこそ、窪木くんとは一生出会うことのない人生だったでしょう…(なんてもったいない!)

▲8月にはチームブリヂストンサイクリングの皆さんと三島駅周辺の清掃活動も

富士山に登るのには、色んな登山口がありますよね。御殿場口、須走口、富士吉田口…きっと入り口がどこからかなだけで、「もっと知らない世界を知りたい、人生を謳歌したい」という気持ちがあれば、実は同じような山を登っていてどこかでつながり、人と人は出会うものなのかもしれません。

学ぶことはいつだって楽しい。新しい世界にふれることはいつだってドキドキする。まずはそうやって、大人がわくわくできる世の中になったら、きっと、子どもたちも未来にわくわくできるはず

窪木くん、改め窪木一茂選手をはじめとするトラック日本代表チームは「アジア選手権トラック2020」(2019年10月17日〜21日 韓国)に出場します!窪木選手が子どもたちに見せてくれる勇姿を楽しみにしながら、私もまた、今日も英語教材作りに励みたいと思います…!

Keep on riding and learning with lots of joy!
Ayaka