南半球のオーストラリアは初夏に当たる10月下旬、日本映画祭にて、同僚とそのパートナーと共にブリスベンの劇場で『湯道』を鑑賞してきました。
日本映画祭(Japan Film Festival)日本映画祭(Japan Film Festival)は世界各国で開催されていますが、オーストラリアは2023年で27回目を迎え、9月末〜11月初旬にかけてブリスベンを含む全5都市にて新旧25作品が上映されています。
今回鑑賞したのは小山薫堂先生脚本の、銭湯を舞台に日本人のお風呂にまつわる想いをテーマにした作品、『湯道』。
薫堂先生と言うと、“アカデミー賞受賞作『おくりびと』の脚本家“ というイメージが映画好きの方の中では強いかもしれないですが、神奈川県民にとっては非常にそのお声に馴染み深いのが薫堂先生です。
と言うのも、FMヨコハマの最長寿番組『FUTRURESCAPE』のパーソナリティーを四半世紀以上に渡り務めていらっしゃるからです。
小学校時代からエフヨコと共に育った私は、一日本映画ファンと言うより、もはや一フューチャーリスナーとして今回劇場に足を運んだようなもの・・・。
『湯道』は2日間限定の公開とあってか、劇場はほぼ満席。
観客からは日本語もちらほら聞こえますが大半は英語で、ローカルの方が多いようでした。
自分は製作にも宣伝にも一ミリも関わっていない(そりゃそうだ)作品ながら「みんな、観に来てくれてありがとうっ!!」と、上演前から早くもフューチャーファンとして勝手に感無量でした。
さて、肝心の本編ですが(ネタバレは控えつつ)老若男女が銭湯に入るシーンが非常に多いので、普段「赤の他人と一糸纏わず同じ湯に浸かる」という慣習がない豪州の人たちには大丈夫かしら・・というのは完全に杞憂でした。
全編日本語・英語字幕ながらも個性的なキャラクターにユーモラスな演出、「湯」(Yu)と「You」をかけた言葉遊びのセリフが適所に散りばめられている薫堂先生の粋な遊び心を感じる作風で、会場からは Hahaha~という笑い声が絶えず聞こえました。
インド系オーストラリア人の同僚の女の子が一番印象に残ったのは、出演俳優たちのダイバーシティ、多様性とのこと。
特に、ベテラン、年配の俳優がシワを隠すことなくありのままで演じていることが、ボリウッド映画と大きく異なると驚いたそうです。
彼女のオージーのパートナーは、小日向文世さん演じる定年退職間際の郵便局員のエピソードが印象に残ったとのこと。典型的な日本人サラリーマン家庭の様子が新鮮に写ったようでした。
エンドロールに流れた “You Are My Sunshine“ は英語歌詞なのもあり、観客誰一人として最後まで席を立つことなく、天童よしみさん、クリス・ハートさんらベテラン歌手勢を含むその歌声に皆聞き入っている様子でした。
終幕時には自然と拍手が湧き起こり、笑いと涙で温まった劇場は、まるで老いも若きも一緒の湯船に浸かる銭湯そのもののようでした。
私がオーストラリアでの生活で特に恋しいと思う日本もの、それは日々のお風呂。自宅にバスタブ自体はあるものの,シャワーブースとは別々なのもあり使うのは週末の自転車朝練後の半身浴の時くらい。一日の体と心の垢を落とす、熱い湯にたっぷりと浸かるあの感覚が時折無性に恋しくなります。
そんな日本人の海外生活あるあるであろう「風呂欲」を存分に満たしてくれた映画『湯道』。鑑賞後は、身も心もポカポカと温まった気分に。そう言えば祖父母が昔住んでいた小田原の、あの銭湯、今もまだあるかな。
今度帰省したら、小田原城の散歩と合わせて足を運びに行きたいな。
I always miss y(o)u.
Ayaka